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 HOME > 海外ニュース > 獣医学への「傷つけない」アプローチ  
 

海外ニュース

【アメリカ】

アメリカにおける教育での動物実験代替法


獣医学への「傷つけない」アプローチ

AVA-net News No.103 (2003.11-12)
翻訳:宮路


 今年、新設された獣医大学院では、学生達は自然死した動物で実習しながら獣医師になるための教育を受けている。30人の学生がいくつかの実習台を囲んで立ち、メスで犬の死体に触れている。このような光景を見ると、犬を飼っている人のほとんどは怒りを感じるか、ベッドの下にでも隠れてしまうだろう。しかし、これらの学生はカリフォルニア州ポモナのウェスタン大学にこのほど新設された獣医大学院の第一期生で、学校側がアメリカでの獣医学教育とその実施における革命と呼ぶものの一環として、「傷つけない」医学を学んでいる。

 多くの学校では、不要動物収容施設や生物科学企業から生きた犬や猫を買い、学生の実習に使い、その後安楽死させている。しかし、ウェスタン獣医大学院では、自然死した、あるいは病気や老齢により安楽死させられた動物を献体してもらい、そういった動物の死体のみを使用することを信条としているので、そのような外科実習は行わない。ある女子学生は、実習用に殺されたと知っていて、その動物を解剖できるかどうか分からない、そのような実習を行う必要がなくてうれしい、という。

 ウェスタンでは、また、講義も廃止された。あまりに退屈であり、効果がないというのが理由だ。キャンパス内の付属動物病院もない。その代りに、学生は、たとえば肩に問題のある犬、などといった理論上の事例を与えられ、診断能力や処置技術を磨き、その後、南カリフォルニアの様々な動物病院で獣医師として臨床実習を重ねていく。

 ウェスタン獣医大学院の学部長シャーリー・ジョンストンは、多くの獣医学校が「動物の権利」という言葉に反応するのは、動物をケージから放し、建物に火をつける、けわしい目つきの精神異常者の集団を連想してしまうからではないだろうか、自分たちの仕事は学生を教育することであるのは分かっているが、ここでは動物の権利を擁護するべきだと考えている、と語った。

 今年8月に開校したウェスタンは、カリフォルニア州ではカリフォルニア大学デイビス校以外には唯一の獣医学校だ。ウェスタンではいくつか独特なやり方がある。例えば、学生が犬の解剖を行う数日前にセレモニーを行い、献体した犬の所有者が学生に死亡したペットの生前について語り、ビデオを見せることもある。

 自分がこれまでに見てきた他の獣医プログラムや実習では、ただの肉としか見なされない「道具」で授業を受けるが、ここでは、死体となった動物の名前を知っており、彼らの生前についての情報も与えられるのだと、ある学生はいう。

 学校のこのような姿勢を賞賛する獣医師もいる。カリフォルニア州中部在住のスタル獣医師は、ウェスタンが開校するのを、文字通り何年も待っていた人達がいたという。1999年、スタルはイリノイ大学で学校に反旗を翻したある学生を支援した。獣医学生達は、学校が正当な理由なくーときには感染症が動物の臓器をどのように破壊するかを見るためにー自分達に動物を殺せといっていると主張した。

 しかし、解剖実習用に動物を献体できるほど、ペット所有者が感情的な強さを持てるかどうか疑問を持つ獣医師もいる。また、学校で生きている動物を使用した外科実習を行わないと、学生が外科の経験を得ることができないのではないかとの声もある。

 アメリカ獣医学協会のジャック・ワルター会長は、ウェスタンの流儀はたしかにひと味違うようだが、個人的な見解としては、生体で行わなければならない実習があると思う、それが医学を学習するうえでの実だ、という。獣医師会によれば、アメリカ国内にはおよそ6、190万頭の犬、6,890万匹の猫、1,010万羽の鳥、510万頭の馬が飼われており、他に何百万もの動物が農場、動物園、研究施設にいる。

 アメリカでは、近年、ペットの数が増加しているが、獣医師の数は増えていない。国の獣医学プログラムのほとんどは、1800年代の終わりから1900年代の始めにかけて、テキサスA&M、イリノイ、ミネソタ、ワシントン州立、カリフォルニア大学デイビス校のような大きな農業学校で確立された。当時、ほとんどの獣医師は家畜を扱っていた。

 今日、獣医学生の多くは男性ではない。ウェスタンの第一期生86人中73人は女性だ。また、ほとんどの大学は、資金的に既存のプログラムを運営するのが精一杯の場合、運営費のかかる獣医大学院を設立することに積極的ではない。

 ウェスタンを含めて、全米には28の獣医大学院があるが、これは十分な数ではない。アメリカ医学会とアメリカ獣医学会の最近の統計によると、現在では医科大学院に入るより獣医大学院に入るほうがむずかしいという。

 これまで、倫理は獣医教育の重要な部分ではあったが、最優先のものではなかった。しかし、この状況は著しく変化した。農業学校へ進学したほとんどの学生は都市に移って小型ペットを扱うが、都市でペットを飼っている人の中には、自分のペットが人間と同じ権利を持っていると思っている人もいるからだ。

 ジョンストンは、1970年代初め、ワシントン州立大の1回生だったとき、外科コースをとり、毎週、犬に麻酔をかけ、指定された外科処置を行っていた。外科処置後、使用した犬を覚醒させ、また別の実習に使用することもあったが、学期の終わりには、使った犬は安楽死させた。そのようなことをするべきではないとは思い付かなかったし、疑問も持たなかったと言う。

 しかし、1998年に獣医大学院の設立が計画段階だったウェスタン大学で働き始めた頃には、そのようなプログラムに疑問を持つだけでなく、それを変えていこうと決めていた。ジョンストンは、「生命への敬意」プログラムを作成し、これを新入生募集の際、学校の特色として前面に打ち出そうとしていた。

 学校見学の際、ジョンストンは教室の中にある釘のついた板を見学者に指し示す。板の横にはちょうど人間の腕が入る大きさの穴の開いた箱がある。学生時代、ジョンストンや彼女の同級生達は牝牛の後ろで、その卵巣に触れてみるために並んで順番を待ったものだが、ウェスタンでは、この代替物に触れてからでなければ、学生は雌牛のそばに行くことはできない。

 カリフォルニア大学デイビス校獣医大学院のオズボーン学部長は、今日の学生は以前の学生よりはるかに動物に対する同情心があるようだという。学生が可能な限りの方法で動物を助ける力になりたいという傾向はしばらく以前から見られるものだが、これに対してほとんどの学校はウェスタンほどには学校としての方針を明らかにしていないのではないか、という。

 ウェスタンでレジデントとして倫理を教えているバレットは、獣医師でも科学者でもない。カンザスの4万エーカーの農場で育ったバレットは、牛に焼印を押し、カウポーイが雄牛を去勢するところを見、吹雪で凍死しかけた子牛を救ったこともある。32歳のときに、バレットは、納屋で母ネズミからはぐれてしまった、小さい、毛も生えていない生まれたばかりのネズミを保護した。彼女は哺乳瓶でそのネズミを育てたが、このとき、このようなちっぽけな生物がこれほど大切な存在であるなら、他の動物はどうなのか、と思った。動物への関心から、アメリカ人道協会(AHA)の仕事につき、その後、ウェスタンへ移った。ここでは、2年間の必修倫理学コースを教えている。

 授業では、いつペットを安楽死させるべきか、あるいは獣医師が宣伝などをすることが適切か、などという従来のレベルをはるかに超えた問題を扱う。バレットが特に重要だと考えているトピックは、例えば、農場で動物がどのように世話をされているかについてだ。現在、動物の権利運動は、集約畜産や鶏肉生産、そして狭い場所に動物がギュウギュウに押し込まれて飼養されている状態について、特に力を入れている。

 ウェスタンの学生が農業関連の仕事をすることになったら、この問題に関するすべての立場を理解してほしいとバレットは思っている。農民が動物の権利活動家の言うことを聞くとは思わないが、恐らく獣医師の言うことなら聞くだろう。獣医師にはそのような力があるのだと思ってほしい、ただ黙々と働く獣医にはなってほしくない、とバレットはいう

Los Angeles Times (2003.10.07)
http://www.latimes.com/news/local/la-me-vet7oct07,1,2838634.story?coll=la-headlines-california

 

 

 

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