■立法
1969年、動物実験に対する規制がないという国際的な批判が起こり、これが引き金となり、1973年、科学実験における動物使用に関する法律が日本で初めて施行された。
当初は総理府の管轄だったこの法は昨年(2000年)4月以来、環境省の管轄となっている。
実験動物の扱いについては最近(2000年12月1日)改正された、より広範囲な(飼養)動物の福祉に関わる「動物の愛護及び管理に関する法律」の一条に規定・定義されている。(しかしながら、この法のより広範囲に渡る条項の改正は、実験動物の問題ではなく、むしろ一般の飼養動物に対する酷い扱いが広く取り上げられたことに起因する)。新法は動物実験に関する条項を本質的に変更していないが、法の見直しが5年毎に行われるので、将来改正される可能性がある。
動物実験に関する条項は、規定条項を明確に定義するのではなく目標を定めているもので、求められる大まかな目標を設定しており、条項の目標を達成するための手段については中央政府によるあまり明確でない指針が設けられている。要約は付録1として添付されている。
諸外国のシステムを検討した後、1980年、日本学術会議実験委員会によって「実験動物の飼養及び保管などに関する基準」が作成されたが、この基準は各々の研究機関が実験小委員会を組織し、またそれぞれの活動と必要性に合わせて補足の指針を作成すること、と定めている。実験を承認する際、各機関の小委員会は、研究グループの実験指針を綿密に調べる責任を負う。東京都老年総合研究所の動物実験指針の要約を付録2として添付する。
この法律は公・民間すべての動物実験に携わる機関に適用される。公の施設では、各省−主に厚生労働省(MHLW)と文部科学省(MEXT)−が、実験動物の使用に対して独自の指針を定めるが、厚生労働省の指針は、実験目的によって異なる。医学研究開発の場合には、国際的に認められている「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準」(Good
Laboratory Practice)が指針の基となり、化学物質に関する実験については、OECD規定に従って行われる。詳細な情報は入手できていないが、他省も同様の柔軟性を持っていると思われる。
動物実験に適用される基準に一貫性を持たせ、これを維持するため、実験小委員会は定期的にミーティングを行って情報を交換している。また、このプロセスを増進するためのITの活用が増えている。
現在、環境省は実験動物の福祉問題に関してさほど積極的に取り組んでおらず、また基準を執行する部署や基準が守られているかを調べる検査官制度もないため、動物実験機関は自主的に規制を行うことになっている。政府は基本的な法の枠組みのみを設け、動物の使用に関する実際の方針は業界や民間機関の影響も受けている。
今年(2001年)4月1日から「情報公開法」は、動物実験関係機関などが特定の情報を公開することを義務付けている。この法により、日本実験動物技術者協会などの公・民間機関は透明性の必要性を認識し、それぞれの機関の活動に関してインターネットを通じての情報提供を促進しているが、まだ自発性には乏しい。
■動物使用における傾向
実験における動物の使用について検査制度や報告義務はないため、使用動物の正確な数は分からない。しかし、文部科学省の所管公益法人である日本実験動物学会(JALAS)は国際実験動物委員会(JCLAS)とのデータ交換のために任意の回答による統計を集めている。880の登録機関から得た回答が動物の使用に関する日本における唯一の公式なデータだ。調査はそのための予算があるときに行われる。最新の、1998年の投票では、JALASの調査に58パーセントの機関が回答している(付録3)。 最近では、マウス以外は動物の使用数は減少傾向にある。動物の使用を減らしたいという根本的な要望よりは、テクノロジーの進歩(例えば、ノックアウトマウスやトランスジェニックマウス)が他の動物種と比べてマウスの実験利用価値を高め、この変化の主な推進力となっている。しかし、公・民間機関共に動物使用に代わる効率的で効果的な代替法があれば、当然それを使うべきだという認識はあるようだ。
動物の使用数に関する集計の他に、日本実験動物協会(JSLA)が実験動物の繁殖数に関する統計を定期的に取っている。この統計もマウス以外は動物の使用は減少傾向にあるとするJALASの統計を裏付けるものである。しかし、輸入実験動物−犬、猫、ノックアウトマウス、トランスジェニックマウス、その他の動物を含む−の統計はない。
動物の使用数を削減する、あるいは代替法を探すことに関して、政府はほとんど中心的役割を担っていないようだ。しかし、少なくとも厚生労働省はこの分野に関して所轄部が動物を使用しない実験を促進しており、イニシアチブをとっている。また、輸入に関する規制を管理している農林水産省の報告によると、小型のブタの使用が増し、その分サルの使用が減少している。他省が同様の方針を持っているかどうかは現在のところ明らかでない。民間機関・大学においては日本代替法学会が代替法促進のために積極的に活動している。
動物の実験使用に関して公にされる情報や議論はほとんどなく、一握りの動物保護活動家はいるが、広範囲の認識不足は、動物実験に対する真剣な反対にかなり不利に働いている。しかし、関心は高まりつつあり、最近の「情報公開法」の制定がこの分
野における活動の促進に結びつくかもしれない。
■英国の過激な動物保護活動の日本における影響
製薬会社や動物実験を業務とする会社に対するアニマルライツ・グループの活動の影響は2001年、日本にも広がり始めた。全体として、嫌がらせや暴力行為から合法的かつ必要な活動を保護できないという認識が、企業をサポートし、好ましい環境を提供するというイギリスの評判を落とした。
日本の製薬会社が特にターゲットとなっていることは、イギリスで研究を行なうための将来的な環境に関する不安を業界全体に引き起こした。これは、ライフサイエンス及び製薬における世界一流の共同研究の中心として、イギリスの好意的なイメージを印象付けようとする大使館や担当省スタッフの努力を損なった。
英国で展開したものと同様の活動を日本でも行うという複数グループの予告は、既に出ている影響をより強くし、かつこのような行為に対するイギリス政府の許容範囲や民主主義的手段で問題を解決する能力に対する一般市民の認識にさらに影響を与える恐れがある。
<付録1> 実験動物の使用に関する法律・基準
改正された「動物の愛護及び管理に関する法律」(環境省の所轄)は、2000年12月1日に施行された。動物を科学上の利用に供する場合の規定はひとつの条文に記され、旧法から変更されていない。「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」からも主なポイントを記載する。
「動物の愛護及び管理に関する法律」 第24条
1 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する場合には、その利用の必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない。
2 動物が科学上の利用に供された後において回復の見込みのない状態に陥っている場合には、その科学上の利用に供した者は、直ちに、できる限り苦痛を与えない方法によってその動物を処分しなければならない。
「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」
第4 実験動物の健康及び安全の保持
2.管理者は、実験動物の飼養又は保管については、その生理、生態、習性等に応じて適切な設備を設けるようにすること。
3.実験動物管理者、実験実施者及び飼養者は、次の事項に留意し、実験動物の健康及び安全の保持に努めること。
(1)実験動物の生理、生態、習性等に応じ、かつ、実験等の目的に支障を及ぼさない範囲で、適切に飼料及び水の給与を行うこと。
第5 実験等の実施上の配慮及び終了後の処置
(1)実験等に当たっては、その実験等の目的に支障を及ぼさない範囲で麻酔薬等を投与すること等によりできる限り実験動物に苦痛を与えないようにするとともに、保温等適切な処置を採ること。
(2)実験等を終了し、又は中断した実験動物を処分するときは、速やかに致死量以上の麻酔薬の投与、又は頸椎脱臼等によって、実験動物にできる限り苦痛を与えないようにすること。
<付録2> 東京都老人総合研究所 実験動物委員会指針(省略)
<付録3> 日本における実験動物の使用数(1998年)
以下の数字はJALASが880の機関を対象に行った調査に対する回答のあった58パーセントの機関の数のみを合計したものである。