「最近犬猫の盗難が相次いでいるとの事ですが、何か良い防止策は無いでしょうか?
我が家の猫(勿論捨て猫の雑種、去勢済み)も2、3日前から帰って来ません。とても心配です」というお問い合わせをいただきました。行方不明になった時の対策、盗難の実態、海外の情報、日本の法律などについて考えてみます。
野上ふさ子
AVA-net会報74号(1999.5-6月号より)
猫は犬より行動範囲が狭いのですぐに近所に貼り紙をしたり、聞き込みをする、チラシを配るなどして、探します。犬の場合は、猫と同じように張り紙をするなどの他、ただちに警察、管轄の保健所、動物管理センターなどに電話を入れます。
もし犬が捕獲(保護)されていた場合、3日以内に飼い主が判明しなければ、翌日には処分されてしまうからです。もし犬がいることがわかったら、連れ戻しに行くまで決して処分しないように強く念を押しておきます。
また、地域によっては、電話の問い合わせくらいだと、職員がよく調べもせずに「そんな犬はいない」と応える場合もあります。また、一カ所に全県の犬を集める大規模施設の場合は、よく似た犬がたくさんいて職員も判断できない場合があります。ですから、毎日施設まで出向いて自分の目で確認することも必要です。
いなくなってから探し出すのはたいへん苦労することになります。逃げ出しやすい犬には、日頃から首輪に電話番号を付け、また鑑札を付けておく必要があります。外に出している猫にも、電話番号を付けた首輪(迷子札)を付けることが大切と思います。
犬猫の盗難
この数年、しばしば猫の盗難事件が起こっています。盗まれる理由の第一は動物実験用だと推定されます。これまでは都道府県が猫を無料で動物実験に払い下げていたのですが、反対の世論が高まり、次第に払い下げを廃止するようになってきました。猫の盗難多発の背景には、実験用猫の供給源が断たれ、以前のように安易に入手できなくなってきたという状況があります。
大学や研究機関が猫を入手するルートは、まず取り引きのある実験動物繁殖業者に猫を発注、すると業者はアルバイトや下請けに頼んで「猫捕り」をさせて集めます。また、シロアリ駆除業者などが需要に応じ「副業」として猫捕りをすることもあります。
猫捕りは、猫が多い地域に目をつけ、夜間に捕獲箱を仕掛け、朝のうちに回収していくという方法で行われるため、現場を見つけることはたいへん困難です。人なつこい猫に対しては、大きな魚捕り網のようなものをかぶせてつかまえることもあります。いずれにせよ現場で捕まえなければ犯人はわかりません。飼い主は、猫が捕まったのか、交通事故にあったのか、それともどこか別の家に上がり込んでいるのか、たいへん悩まされることになります。
捕獲された猫は、アルバイトの手から実験動物業者の手に渡されます。この時の値段は5000円程度だとのことです。
業者の施設に入れられた段階で、かなりの猫がストレスや発病で衰弱したり死ぬと言われます。健康そうでで人によく慣れた猫は1匹1万円ていどで研究機関に売却されます。病気のチェックをしてワクチンを打ったりした場合はさらに値段が上がって、数万円になります。実験専用に繁殖させる猫は10万円くらい(段階によって価格も異なる)と言われ、価格が高いため研究者もむやみに使うわけにはいきません。
研究費用の観点から、実験に使われる猫の大部分は、このようにして「猫捕り」で集められた飼い猫または外猫だと推定されます。これを飼い主の側から見れば、明らかに「盗難」「窃盗」であり「犯罪」ということになります。けれども実験者側に言わせれば、特定の実験業者から購入しており、盗まれた飼い猫ではないと言います。間に複数の業者が介在するために、なかなか猫捕りの実態がつかめないのです。
海外の法律
動物実験に対しては、諸外国では法律による規制があります。英国では、実験者個人や実験プロジェクトは免許(ライセンス)制で、実験施設も実験動物の繁殖施設も認可制となっています。獣医師や医師などの専門職による外部からの査察制度もあります。犬や猫は、認可された繁殖施設以外の個体を使用してはならないと法律で定めています。ヨーロッパ各国に強制力のあるEU連合法においても、登録された繁殖施設以外の動物を実験に使用しないこと、特にのら犬猫の実験使用は禁止することを明記しています。
アメリカはヨーロッパよりも規制が緩いのですが、カナダのオンタリオ州ではよほど盗難が多いのか、行方不明になった犬や猫の飼い主は実験室の中に探しにいくことができるということを、州条例によって定めています。
「同州条例140/71:すべての施設の管理者は、施設内に収容したいずれかのイヌ、ネコを自分のものとして要求したい人々のために、施設を公開する日時を述べた通知を施設の外側にはっきりと見える位置に掲示するか、または掲示させるようにするべきである。また、すべての施設は、イヌまたはネコが施設内にいる間は毎日少なくとも1回はそのような目的のために公開されるべきである。」
(『諸外国における動物実験の法規制に関する調査研究』昭和63〜平成2年度文部省科学研究費補助金研究報告)
日本の法律
●刑法:窃盗罪
明らかに故意に他人の飼い猫(人の所有または占有する猫)を無断で捕獲し持ち去ることは、財産権の侵害であり、窃盗罪になります。しかし、犯人が現行犯で見つかること自体がほとんどないために、事件になりません。また、他人の飼い猫を盗んですぐに転売するわけですから、盗品(猫)がすでに存在せず、証拠を押さえることが困難です。猫捕りが多発するようであれば、猫が集まる場所に隠しカメラを設置するとか、何人かでパトロールをするなどの自衛手段も考えられます。
●動物の保護と管理に関する法律:動物虐待
猫は動管法による保護動物であり、捕獲後故意に虐待していれば、動物虐待罪になります。また、痛みや苦しみを与えることが明らかな動物実験を目的として猫を捕獲すれば、それも虐待になるのではないかと思われます。
飼い主のいない猫を捕獲し(占有し)、どこか他の場所に持っていき、捨てる(遺棄する)場合、餌のない場所に遺棄されると餓死か衰弱死する可能性が大きく、虐待的な遺棄になるでしょう。現行法では、動物の遺棄・虐待は3万円以下の罰金です。
●遺失物法:逸走の家畜
雨傘を電車に置き忘れたり、財布を落とした場合、拾った人は遺失物として届け出ます。遺失物は6ヶ月間保管され、その間に所有者が名乗り出なければ、6ヶ月後に処分に付されます。
行方不明になった犬や猫の場合も、遺失物(占有離脱物)に当たるので、警察に届け出を出す必要があります。しかし、犬や猫が保健所などに連れ込まれていた場合、6ヶ月も保護してはくれません。迷い犬の場合は、「狂犬病予防法」や自治体条例により、捕獲されて3日以内に飼い主が現れなければ処分されてしまいます。
迷い猫が保護された場合は、「逸走の家畜」(逃げ出した家畜)という条項が適用されます。それは、「なまもの、腐りやすい物」などと同様、占有を離脱した動物は6ケ月を待たず3日で処分することができる、というものです。動物の生命は、雨傘以下の取り扱いです。
ところが、驚くことに、迷い犬や迷い猫を保護し自宅で預かっている場合は、その人のお宅で6ヶ月間過ぎなければ、自分が飼い主(所有権者)とはなれないのです。またその6ケ月間に元の飼い主が現れた場合は、すぐに返還しなければなりません。行政の施設に収容されればわずか3日ほどで処分されるのに、親切な保護者は6ヶ月経たなければ本当の飼い主になれないというもので、包括的な動物保護法がないために、このようなばかげたことになってしまうのです。
●器物損壊罪
自分の飼い犬や猫が何者かによって虐待を受けた場合は、器物損壊罪として警察に訴えることができます。これは自分の所有物が他者によって破壊された場合に限るので、飼い主のいない犬や猫に対しては適用されません。被害者である所有者・占有者が警察に「被害届」を出さなければ、違法行為として警察が捜査することはないのです。器物損壊罪は最高30万円以下の罰金、1年以下の懲役ですが、これに対して、動物の保護及び管理に関する法律での動物の遺棄・虐待は、罰金最高3万円以下ですから、日本の法律上では、動物の生命は「器物」以下ということができます。
※昨年(1999年)秋の臨時国会で動管法改正が決議されましたので、ペットに関する虐待の罰則は強化される見込みです。
参考1:
昭和55年に兵庫県の保健環境部長が、兵庫県警本部長へ出した質問内容とその回答
質問:「動管法に基づく犬又はネコの引き取りのうち、所有者の判明しない犬又はネコの引き取り(同法第7条第2項)に関連する下記のことについて回答願いたく照会します。
1.拾得された犬又はネコが明らかに遺失物法(第12条)に規定する「逸走の家畜」として認められる場合はいかなる場合か。
回答:昭和55年4月19日に兵庫県警より県の担当者へ
「逸走の家畜」と認め、拾得物として取り扱う犬又はネコの範囲。
(1)犬については、原則として鑑札を付した首輪をつけているもの。
(2)ネコ及び(1)以外の犬について、社会通念上、価値の高いものと認められるもの。例えば外来種のネコ、血統書が所有されていると判断できるような成犬及び幼犬。
参考2:日本実験動物学会アンケートによる、猫の使用数(1995)
繁殖ネコ(国内産) |
1647匹
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繁殖ネコ(外国産) |
387匹
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譲渡ネコ(自治体など) |
6520匹
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その他 |
427匹
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合計 |
8981匹
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