「実験動物に関する基準」(日本)
その問題点とEU法との比較
日本には、動物保護の観点から動物実験を規制する法律が存在しません。唯一、昭和55年に定められた「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」がありますが、これは、動物の管理に関する事項のみで、動物の福祉や愛護に関する事項は含まれていません。この基準自体、抜本的に見直されなければなりません。EU法と比較して、この基準の問題点を指摘したいと思います。
実験動物の飼養及び保管等に関する基準(日本)
(総理府告示昭和55年)
1,強制力がない(実効性がない)
基準の遵守は「努めること」という努力目標にすぎない(基本原則)。遵守させるための強制力が何もなく、また、具体的で明確な遵守基準がないために、各施設の「自主規制」に委ねるより他はない仕組みになっている。
2,具体性に乏しい
多くの項目で、「必要に応じ」「必要な措置」あるいは「適切な〜」という用語があるが、何をもって「必要」「適切」とするのか、判断基準も定義もない。
3,動物実験の定義がない
動物実験は動物に痛み苦しみを与える行為であるという前提が記されていない。そのために、苦痛の軽減、不必要な実験の削減、代替法の必要性の記述が完全に欠落している。(欧米諸国の法律やEUの基準はそれを明確に記している)
4,動物の福祉の観点の欠落
動物に対する苦痛に対する配慮は、輸送、実験、および終了後の殺処分において、「できる限り」という努力目標として記されているのみ。
5,実験者への教育、研修制も欠落
誰でも動物実験を行うことが許される。
6,記録の保持・公開がない
実験施設における動物の使用数、種類などの記録を取る必要もその情報の開示も課せられない。
7,実験の監視制がまったくない
行政への報告も義務も、行政の立ち入り調査権もない。
EU「動物実験指令」 (Directive 1986/11)
■指令:加盟国に対して法的拘束力を持つもので、各国の国内法に取り込まれなければならない。
1,基準の遵守について監視機関をおく(第6条)
指針の遵守に関して責任を負う権威ある機関を定めなければならない。
2,国による実験の認定(第7条)
・実験およびプロジェクトは、国の規定による認定を受けなければならない。
・実験を行う前に代替法を検討しなければならない。
・動物の受ける苦痛を最小限のものとすること
・実験に用いる動物の数は最小限とすること。
・野生動物は実験に使用しないこと。
3,苦痛に対する配慮(第8条)
・すべての動物実験は原則として麻酔下で行われること。
4,実験終了後の安楽死(第9条)
5,実験動物の再利用の禁止(第10条)
・大きな苦痛を与える実験は1回以上行ってはならない。
6,実験内容の申告(第12条)
・加盟国は、実験内容と実験担当者の詳細を、実験開始前に行政機関の長に知らせる手続きを確立しなけれならない。
・過度あるいは長期にわたる苦痛を与える実験は、行政機関の長に申告しなければならない。それが不可欠な実験であると認められない場合は、行政は法的または行政的対応をらなければならない。
7,統計の公表
・実験に使用された動物の種類と数、その他に関して、国は統計的情報を集め、公的に公開されるべきである。
8,実験動物の飼育管理者の有資格制(第14条)
・実験動物の飼育管理者は教育と訓練を受ける必要があり、行政の機関の長による認定制としなければならない。
9,実験動物の繁殖・供給施設の登録制(第15条)
・認定された実験動物繁殖施設からの動物の使用。
・違法輸入、野生動物、遺棄された動物は認定施設に導入することはできない。
10.記録の保持(第17条)
・繁殖・供給施設は、動物の種類、数、供給日、供給先を規則しなければならず、3年間記録を保持しなければならない。行政機関はこれを定期的に検閲する。
11,犬、猫、サルの特別扱い(第18条)
・犬、猫、サルは個体識別を行い、記録をとる。
12,実験施設の登録・承認制(第19条)
・実験施設の設定は、建築、機能は、実験動物の数を最小とし、同鬱に与える苦痛、苦悩、ストレスを最小限にすること等を保証するものでなければならない。
・施設で使用された動物の記録(同鬱の種、数、入手先、導入日)を保管し、3年間保持。行政から求めがあった場合はこれを提示しなければならない。
・施設は定期的に行政による観察を受けなければならない。
13,加盟国間における重複実験の回避(第22条)
・加盟国間における重複実験をさけること。加盟国は、EC委員会に対して自国における実験の情報や行政の細則を提示すべきである。
・EC委員会は、加盟国の代表で構成される常設に諮問委員会を設立する。
14,代替法の促進(第23条)
・EC委員会及び加盟国は、代替法の研究を推奨する。
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