カナダ、オタワ大学の細胞生物学者メイ・グリフィス博士は、研究のために必要な人間の角膜が入手困難であるため、人造角膜の開発を進めてきた。グリフィス博士によると、動物の角膜では人間のものと生理機能がまったく異なるため研究には使用できず、それで、人造角膜の開発に着手したという。5年に渡る研究の成果が、このほど「サイエンス」誌に発表され、世界中の注目を集めている。この人造角膜が実用化されれば、患者は角膜移植手術のためのドナーを何ヶ月、ときには何年も待つ必要がなくなる。
人造角膜はドナーの提供した角膜から培養した細胞を五層に重ねたものにある種のウィルス性遺伝形質を植え付け、細胞が死なないようにする。こうすると、細胞は無限に複製を繰り替えす。重ねた細胞がバラバラにならないようにするにはコラーゲン・バイオマトリックス(硬蛋白質性生体細胞間質)を使用する。すべての作業は2週間で行なうことができる。
レーザーによる視力矯正などの治療を受ける人が増えており、こういった治療を施された角膜は移植に適さないため、移植用人造角膜の需要は今後拡大すると見られている。
また、現在、化粧品、化学薬品の刺激性テストには主にウサギが使用されているが、実験の動物使用に反対する声も年々強まっている。動物保護団体などは、製品の安全性確認のために動物の目をつぶすことの残酷性を指摘しているが、この人造角膜が実用化されれば、こういった動物実験も減少することになる。
しかし、人造角膜は本物と比較すると強度に欠け、また、元の細胞に植え付ける遺伝形質が長期的にどのような影響を角膜に及ぼすか明らかになっていない、そして、様々な規定をこれからクリアしていかなければならない、などの問題が残っており、実用化までには時間がかかると思われる。