1993年米バルチモアに始まり、3年ごとに開催されてきた世界動物実験代替法学会が、今年8月東京で開かれる。
人道的な科学のみが良い科学であるとし、3Rを基本とした代替法の推進や実験動物の保護を趣旨としたボローニャ宣言が採択された第3回学会に出席する機会があったが、あれから7年。
EUでは2009年に化粧品の安全性のための動物実験が廃止される。そのため2007年までにさらに有効な代替法や新しい代替法の有効性を確認する確固たるプランを確立しなければならなくなった。今後の代替法に関する様々な方策に影響を及ぼすという意味で、第6回学会は非常に重要である。
また、アジア圏で開かれる初めての会議としても意義深い。これに関連して、東京での開催前に北京とソウルで中国と韓国の研究者らによるサテライトシンポジウムも行われる。日本のみならず中国や韓国でも実験動物の保護や代替法の研究を再考する最大の機会でもある。
今回の大会の目的は以下の通りである:
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1.教育、研究、動物実験の各分野での3R(削減、洗練、置き換え)の普及や進展の再考・評価を行う
2.代替法の現状・位置づけへの現実的な理解を促す
3.研究において、動物を用いた研究は臨床試験や試験管(in vitro)を用いた手法と併せて科学を進歩させるという共通の理解を得る
4.既存の生物学や病気の基礎知識に貢献する
5.動物保護団体と科学者との間の建設的な論議を促す
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■会議の内容など
第6回世界代替法学会は8月21日から25日の期間、東京都内のホテルイースト21東京で開催される。
最終日の25日には「市民との対話」と題したシンポジウムが開かれ、英BUAVのMichelle Thew氏や米PETAのKate
Willet氏などが講演をする。このシンポジウムは、研究者、動物福祉運動家、市民が対等にそれぞれの立場を披露し、実験動物の福祉の向上、社会が納得するような動物実験のあり方、動物実験代替法などについて自由に討議するのが目的である。ALIVEとしては日本における法整備と実態把握の必要性についてのスピーチをすることになっている。
この日の午後には、「実験動物のためにできること」という無料の市民向け講座も開かれる。
基調講演は米ファイザー製薬のJudy McArthur氏や英ユニリーバのJulia Fentem氏などによるもので、IACLAMのような獣医師の国際的専門家団体によって承認された代替法を使った研究についての最新の報告などの内容となっている。
本会議は、「動物の福祉」、「教育現場での3R」、「毒物学とバリデーション」、 「3Rのグローバリゼーション」など10のテーマで構成されている。
「動物の福祉」に関しては、動物のケア、苦痛とストレスの削減、輸送、霊長類の置き換えなど興味深い項目が並ぶ。大半が素人には難しい専門的な講義ではあるが、例えば「教育現場での3R」では、動物ではないモデルを使って、それぞれの教育目標を達成することや、科学者や先生を対象とした生涯にわたる倫理教育についての講義など、様々な立場の教育関係者にとって有意義な内容となっている。
「3Rのグローバリゼーション」では、途上国やアジアでの近況、バリデーション、国際協力など、重要な課題が取り上げられる。
このような講義以外にも少人数グループによるディスカッション、昼食会セミナーや、マルチメディア・ルームでの展示などが予定され、代替法を考える獣医学生らによるポスター展示では、国内での現場の生の声を聞くことができそうだ。
今回の会議の成果が実験動物や動物実験に対する実態調査や法規制の必要性への共通認識につながり、また国際的な協力のもと、3Rがさらに多くの分野で徹底されるようになることを期待する。
2007年8月25日 「研究者と市民の対話」シンポジウム
ALIVEの講演 「動物実験代替法を進めるには何が必要か」
→全文はこちらをご覧下さい
(概要)
日本では、動物実験を規制する法律は存在しない。2005年に改正された「動物の愛 護及び管理に関する法律」において、はじめて、3Rsの原則が明記されたが、法的
強制力はなく、もちろん罰則もない。
3Rsのうち、苦痛の軽減は義務とされているものの、
代替法と使用数の削減については「配慮」事項にすぎない。ALIVEを含め、ほとんどすべての動物保護団体は長年、動物実験および施設の届け出制(ないしは登録制)の導入による実態把握、および行政による立ち入り調査(査察)制度を求めているが、未だに実現していない。
動物実験の実態把握の制度は、3Rsを実施する上で必要不可欠である。
1,苦痛の軽減を実施するためには、どのような苦痛を与える実験が行われているかの把握がなされていなければならない。
2,動物の使用数を削減するためには、実数の把握ができていなければ、判断の根拠がない。
3,代替法を進めるためには、どのような分野でどのような実験が代替可能であるかの判定が必要である。
私たちは、動物実験の法規制は、以下のような公益を促進すると考える。
1,実態を把握する手段ができることにより、問題への迅速な対処ができる。
2,手続きの合理化、透明化により、動物の犠牲、費用と労力のムダをなくせる。
3,情報公開により動物の犠牲に関して社会的関心が寄せられ、モラルが向上する。
4,研究に投じられる費用に対する効果を測定しやすくなる。