行政による医学研究機関への犬猫の実験提供は、何十年もの間続いてきた行政と研究機関の癒着による悪習です。
行政は引き取った犬猫の処分を実験研究者たちにやってもらえ、一方研究者側はただでいつでもいくらでも入手したいがために要求し続けるという関係が続いてきたのです。
このことは、社会にたいへん悪い影響を与えていました。まず、本来ならば新しい飼い主がみつかりやすい健康で人なつこい犬や猫が優先的に実験に提供されてきたために、行政は引き取った犬猫の新しい飼い主探しをするという必要性をまったく感じてきませんでした。また、研究者達もいくらでも犬や猫が入手できることから、手先の訓練や好奇心を満たすためだけの実験などで大量に使い捨てにしていたのです。どちらも生命の尊厳というモラルを欠落させ、動物の使い捨てを助長させてきたと言えるでしょう。
この悪習を絶ちきったのは、犬猫の処分に疑問を持つ私たち市民の声でした。1990年に、当会による国立病院で実験後放置されていた「シロ」という犬の救出によって、大きな変化が起こりました。1991年に東京都が全国に先駆けて、払い下げ廃止の方針を打ち出し、また全国の会員の方々の熱心な働きかけにより、次々と各地で払い下げの廃止が進み、とうとう、この10年で実験に回される犬と猫の数が10分の1に減少したのです。
このことは同時に、行政や実験者に私たち市民の声を届けることがいかに必要かということの証でもあります。
いまだに犬猫を実験に払い下げている自治体に対しては、公共財産の処分(払い下げ)に際しては、その手続きを明らかにすること、また実験施設への立入調査を行い、その情報を公開することを求めましょう。私たちの要望の結果、多くの自治体で実験施設への立入調査を行うようになり、また払い下げに関する書類を作成するようになっています。
また、払い下げが廃止になった後でも、「狂犬病予防法」や「動物愛護法」に基づき、行政は犬の登録や適正な飼育がなされているかどうかを調査することができるはずです。実験施設における動物の飼養状況の調査や情報の公開を求めていきましょう。
各県における払い下げ廃止の動き
●秋田県
平成9年度から廃止。長い間、大学側からの要望が徐々に減ってきて、全国的に動物愛護の世論も高まってきたため。大学側でもペットの犬猫は実験に向かないと言い、トラブルも無く廃止となったとのこと。
●愛知県、名古屋市
平成11年の4月1日から廃止。平成10年に悪質繁殖業者の元から犬を引き取り治療して一般譲渡をした実績などから愛護行政への転換を進める。首都圏(東京、埼玉、神奈川等)、関西圏(京都、大阪、滋賀、奈良等)に続き、東海圏の中心である愛知県と名古屋市でも廃止になったことの意味は大きい。
●長野県、横浜市
平成11年4月1日から、長野県、横浜市で廃止。長野県では、オリンピックを前に国際世論への悪影響を考慮して廃止を決定した経緯がある。
●石川県
平成11年10月から廃止。AVA-net会員による調査、熱心な要望活動等によるところが大きい。
●宮城県
平成12年4月1日から廃止。払い下げが全国的に問題になってきたので、大学側と話し合いを始めた。大学側は継続を求めているが、県としては早く止めたいというやりとりがあった。まだ払い下げを続けている仙台市に対しては、会員が署名活動を展開中。市としても削減したい意向。
●静岡県
平成13年度より廃止決定。いまどき実験払い下げを続ける時代ではないとのこと。静岡市は平成10年度に廃止。
●千葉県と茨城県
この両県は、主に東京都内の医科系大学に毎年数百頭もの犬を実験用に出してきた。県外払い下げは自治体業務の為すべきことではなく批判を受けてきたが、とうとう2000年4月1日から県外機関への払い下げの廃止を決定。これで実験提供の3分の2以上が減少する見込み。
●栃木県と青森県はまだ
栃木県は、2000年4月から県外払い下げを半減させ、2002年には県外へは出さない方針。しかし平成11年度で栃木県と青森県は払い下げ数が1000頭近くあり、全国1位。青森県では今後は減少させていきたいと弁明している。